こんな質問にお答えします。
これはスイスに留学するときに一番聞かれた質問です。実は、私も思っていました。「スイス語...って聞いたことないけど、じゃあ何語を話してるの?」と。
というわけで今回は、
- スイスの公用語は?
- スイスで話されている言語の割合や分布
- スイスで英語は通じる?
- スイス生活の言語事情について
について解説します!
スイス留学時代ではフランス語圏に住んでいたので、体験談も交えながらお話ししたいと思います。
スイスへの旅行や留学などを予定されている方、多言語へ興味がある方、ぜひ参考にしてみてください。
スイス語?スイスで話されている4つの言語とは?
スイスで公用語として話されている言語は、次の4つです。
- ドイツ語
- フランス語
- イタリア語
- ロマンシュ語
九州と同じくらいの大きさのスイスですが、地域によって話されている言葉が違います。
とはいえ、いまいちピンときませんよね...。例えばこんなイメージです。
同じ「スイス」のパスポートを持っていても、
というように、「スイス人で同じパスポートをもっているのだけど、別の言語を話して生活している」という環境です。
実際にこのふたりが会話をするなら、「ドイツ語かフランス語のどちらかに合わせる」、もしくは最近だと「英語」を共通語として話すことも多いようです。
(スイスフランス語圏出身の友人は、「ドイツ語全然分からないので、ドイツ語圏の人とは英語で会話する!」と言っていました。)
日本語で全国どこでも通じるという私たちにとっては、ちょっと分かりにくい感覚ですよね。
スイスの言語分布と割合
この地図は、スイスの4つの公用語の分布図です。
一番大きな黄色のエリアでは何語を話しているかわかりますか?
スイス国内で話されている言語の割合は次のとおりです。
● ドイツ語(約63%)
● フランス語(約23%)
● イタリア語(約8%)
● ロマンシュ語(約1%未満)
それぞれの「語圏」は、ドイツ、フランス、イタリアの国々と隣接しています。
「スイス語」は存在する?
残念ながら「スイス語」という言語はないんです。
ただし、「ロマンシュ語」はスイスの少数言語で、スイスのごく一部の地域の人たちによって話されています。
また、スイスで話されている「ドイツ語」は「スイスドイツ語」と呼ばれ、ドイツで話されている「標準ドイツ語」とはかなり違うことでも知られています。
というように、「スイス語」という言語はありませんが、「スイス語」と呼んでいいほどの特徴をもった言語も話されています。
では、そのスイスの公用語と言語圏について詳しくみていきましょう。
スイスの公用語①ドイツ語
国民の約63%がドイツ語を話します。この地方は、スイスの北部・中部に位置し、ドイツに隣接しています。
「スイス」はドイツ語で「Schweiz」と表記します。スイスのドイツ語は、「Schweizerdeutsch(スイスドイツ語)」と呼ばれています。
「ドイツ語の方言のひとつ」と言われていますが、ドイツで話されている標準ドイツ語とはかなり違うことで有名です。「???」とドイツ人でも顔をしかめるくらいに、スイスドイツ語を理解するのが難しいのです。
また、スイスドイツ語は話し言葉として使われます。
書き言葉の新聞や公的な文書、書類などは標準ドイツ語が使われています。
・ベルン(首都)
・チューリッヒ
・バーゼル
・インターラーケン
・グリンデルワルト
・マイエンフェルト
【比較】「スイスドイツ語」と「ドイツのドイツ語」はこんなに違う!
ドイツ人でも理解するのが難しい「スイスドイツ語」。どれくらい違うのか気になりますよね?
実際に聞き比べてみましょう!言語は次の順に流れます。
- 英語
- 標準ドイツ語(ドイツで話されている)
- スイスドイツ語(チューリッヒ/都市部)
- スイスドイツ語(ヴァレー州/山間部 方言強い)
どうですか?
スイスドイツ語と標準ドイツ語、違いますよね。
さらに、同じ「スイスドイツ語」でも結構違うのが分かると思います。
スイスドイツ語圏の中にも、方言が存在します。特に④のValaisヴァレー州のドイツ語は方言が強いことで有名です。
ちなみに、そのヴァレー州の彼が最後に「Merci(メルシー)」と言ったのに気が付きましたか?
スイスドイツ語圏では、フランス語の影響を受けて「Danke(ダンケ/ 標準ドイツ語)」の代わりに「Merci」と言っているのもよく聞きますよ。
『アルプスの少女ハイジ』は何語で話してる?
スイスといってまず思いつくのは、『アルプスの少女ハイジ』じゃないでしょうか。
ここで問題です。ハイジは何語を話していたか分かりますか?
アルプスの少女ハイジの舞台は、スイスドイツ語圏のMaienfeld(マイエンフェルト)という村です。
おじいさんのアルムおんじは山の男なのできっと方言が強かったんじゃないかと思います。ハイジがおんじのところに来る前にいたのも、スイスドイツ語圏のラガーツ。
というわけで、きっと、ハイジも「スイスドイツ語」で話していたんだと思います。(デーテおばさんがよっぽど意識して、ハイジに標準ドイツ語を教えていない限りは...)
クララは、ドイツの都会フランクフルトに住んでいます。
しかも良家の高等な教育を受けているのできれいなドイツ語を話すし、耳にするのもきれいなドイツ語だけだったはず。
とすると、ハイジのスイスドイツ語って、クララにとっては聞き慣れないものだったんじゃないかとおもってしまうんですよね。
でも、ハイジの作者はスイス人だし、ちゃんとストーリーができているということは、その弊害はなかったんですかね...(答えは分からずです...)
スイスの公用語②フランス語
スイスで話されているフランス語は、国民全体の約23%です。スイスの西部に位置し、フランスに隣接しています。
「スイス」はフランス語で「Suisse」と表記します。
スイスで話されるフランス語は、標準フランス語と大きな違いはありません。
ただし、スピードとイントネーションに特徴はあります。パリ出身の友人曰く、
「スイスフランス語は、比較的ゆっくりで、結構イントネーションもある。だからおばあちゃんが話しているようだ」
なのだそうです。
もちろん、皆が皆おばあちゃんのようには話していません。世代もありますしね。でもパリっ子にしてみれば、スイス人のフランス語はゆっくりなんだそうです。
スイスフランス語の数字・数え方
とはいえ、スイスフランス語が標準フランス語と決定的に違うことがあります。
それは、数字・数え方です。「70、80、90」代の数字に特徴があります。
具体的にみてみましょう。
数字 | フランス語 | スイスフランス語 |
70 | soixante-dix 60 + 10 | septante 7 |
80 | quatre-vignt 4 x 20 | huitante 8 |
90 | quatre-vignt-dix 4 x 20 + 10 | nonante 9 |
標準のフランス語は、70以降の数え方がややこしいんです。
70は「60 + 10」
80は「4 × 20」
90は「4 × 20 +10」
という言い方をします。
それに比べるとスイスフランス語はとてもシンプル!です。
日本語と同じように、7 x10、8x10、9x10と展開します。
・ジュネーブ
・モントルー
・ヌーシャテル
・ローザンヌ
・ヴヴェイ
スイスの公用語③イタリア語
人口の約8%がイタリア語を話します。スイスの南部に位置し、イタリアに隣接しています。
「スイス」はイタリア語で「Svizra」と表記します。ロカルノ国際映画祭が開催されるLocarno(ロカルノ)はスイスイタリア語圏です。
スイスのイタリア語圏は、歴史的・文化的にも北イタリアと深いつながりがあります。天気がよくて、明るくて陽気なイメージがあるのは、やっぱりイタリア語の響きもあるんでしょうね。
「スイスのイタリア語は、標準的なイタリア語と大きな違いはないよ」とスイスイタリアの友人が言っていました。
フランス語と同じラテン系の言語なので、イタリア語話者であればフランス語も理解しやすいし、その逆も然りです。
・ルガノ
・ロカルノ
スイスの公用語④ロマンシュ語
スイスの第四の国語ロマンシュ語話者は、スイス全人口の1%未満です。
「スイス」はロマンシュ語で「Svizra」と表記します。
実用言語としてはなかなか使われなくなっているマイノリティの言語ですが、若い世代でロマンシュ語のヒップホップグループがあるなど、新しいカタチでまた動き始めているようです。
ロマンシュ語の中に存在する5つの方言もそれぞれにかなり違います。ロマンシュ語圏の人たちは、ドイツ語、スイスドイツ語、イタリア語などもネイティブとして話せるとのことです。
・サンモリッツ
・シュクオール
スイスで英語は通じるの?
多言語国家、しかも英語は公用語ではない、と聞くとちょっと身構えてしまいますよね。
でも大丈夫です!なんといってもスイスは観光立国。観光地では間違いなく英語は通じます。
カフェ、レストラン、お土産屋、美術館、駅、スーパーなど、英語で問題なくコミュニケーションが取れます。
観光地化されていない小さな村や街の店などは、もしかしたら英語が通じないかもしれません。
そんなときは、翻訳アプリを使ったり、スイスのガイドブックにはフランス語・ドイツ語の表現集も載っているのでそれを使うのも役に立ちますよ。
スイス生活の多言語事情
スイスの公用語は「ドイツ語」「フランス語」「イタリア語」の4つの言語です。
って思いますよね。
スイスでは住んでいる地域によって話されている言語が違います。
ですので基本的には、
- フランス語圏に住んでいれば「フランス語」に囲まれて生活
- ドイツ語圏に住んでいれば「スイスドイツ語」また「標準ドイツ語」に囲まれて生活
という環境です。
ただ、そこは多言語国家のスイス。それぞれの「語圏」の生活の中で、公用語の他言語に触れる機会がかなり多くあります。
例えばどんな機会があるのでしょうか。実際に生活していた私の経験をお話しします。
スイスの多言語生活例①英語の字幕は2言語
スイスの多言語文化を目の当たりにできるのは、映画館で字幕映画を観るときです。
なぜなら、字幕が2言語で出てくるからです。
例えばこんな感じです...
この映画をアメリカ映画とします。登場人物が話しているのは英語です。
そして、字幕は「フランス語」と「ドイツ語」の2言語で表示されます。
- 音声→英語
- 字幕上段→フランス語
- 字幕下段→ドイツ語
ちなみに、同じ映画をスイスのドイツ語圏で観るなら、
- 上段:ドイツ語
- 下段:フランス語
という順で字幕が表示されます。
各言語が2行になったときは、合計4行の字幕!なんてこともあります。スクリーンの半分ほどが字で埋まるかのような勢いです。
実際に慣れてしまえば「自分でいちばん理解できる言語で観る、聞く」というスタイルでそれぞれに映画を楽しみます。
3言語というと一瞬驚きますが、私たちが字幕の映画を観ていて「日本語字幕で楽しむか、原語音声で楽しむか」と同じ感覚ですよね!
スイスの多言語生活例②チョコレートのラベル
スイスといえば、チョコレートですよね。
スーパーに行けば板チョコのコーナーが壁一面にあったりしてかなり圧巻です。どれを選んでも美味しいし手頃でお土産にもおすすめです。
こちらのチョコレートは、Cailler(カイエ)というメーカーのものです。
チョコレートの内容は、
BLONDE SCHOLOLADE MIT MANDELN ← ドイツ語
と2言語で表記されています。
ちなみに「アーモンド入りブロンドチョコレート」という意味です。
こららはFREYというメーカーのもの。
説明は、ドイツ語から始まり、フランス語とイタリア語が次に続きます。
表記が2言語か3言語かは、メーカーによって違うようです。
ちなみに、商品の表記にロマンシュ語を見たことはありません。ロマンシュ語の話者はスイスでも非常に少ないからだと思います。
これは余談ですが、どの言語をデザインの中心にしているかというのは、私の分析ですが、メーカーの所在地次第かなと思います。
例えば、CaillerはNestlé(ネスレ)のブランド。Nestléは、フランス語圏のVeveyという街にあるので、フランス語表記が一番目。
CHOCOLAT FREYはチョコレートメーカーで、スイスドイツ語圏のBuchsという街にあるので、ドイツ語表記が一番目...という予想です。
スイスの多言語生活例③メモ帳
こちらもドイツ語、フランス語、イタリア語の3言語併記です。スイスのいろんな商品はこのように多言語表記です。
この画像で見えている部分では、「ブロックノート」「4mmマス」「枚」が多言語表記されています。
この3つを示すのに、9つの表記が必要なんです。3言語併記だと、とにかく文字が多くなりますよね。多言語文化のデザインは、その考え方や方法も違ってくるんでしょうね。
スイスの多言語生活例③スイス鉄道の案内
「スイス連邦鉄道」という名前も、下のように3言語で併記されます。
電車の車体に書いてあるのをよく見かけます。
- SBB(ドイツ語): Schweizerische Bundesbahnen
- CFF(フランス語): Chemins de Fédéraux Suisses
- FFS(イタリア語): Ferrovie Federali Svizzere
すべて「スイス連邦鉄道」という意味です。
スイスの駅構内、車内のアナウンスももちろん複数言語で行われます。さらに、観光に関わることなので、駅や車内では英語でも案内されます。
さらに、スイスの鉄道に乗っておもしろいのは、車内アナウンスの言語の順番が入れ替わることです。
例えば、フランス語圏を走っている時のアナウンスは次の順番です。
- 「フランス語」→「ドイツ語」→「英語」
ドイツ語圏に入ると、その順番がこのように変わります。
- 「ドイツ語」→「フランス語」→「英語」
スイス各都市で話されている言語は?
スイスの主な都市で使われている言語を都市別に一覧しました。
表内のドイツ語は、スイスドイツ語です。
都市名:五十音順
都市 | 話されている言語 |
インターラーケン(Interlaken) | ドイツ語 |
グリンデルワルト(Grindelwald) | ドイツ語 |
サンモリッツ(St. Moritz) | ドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語 |
ジュネーブ(Genève) | フランス語 |
ツェルマット(Zermatt) | ドイツ語 |
チューリッヒ(Zürich) | ドイツ語 |
バーゼル(Basel) | ドイツ語 |
ベルン(Bern) | ドイツ語 |
マイエンフェルト(Maienfeld) | ドイツ語 |
モントルー(Montreux) | フランス語 |
ルガノ(Lugano) | イタリア語 |
ルツェルン(Lucern) | ドイツ語 |
ロカルノ(Locarno) | イタリア語 |
ローザンヌ(Lausanne) | フランス語 |
ドイツ語圏のバーゼルは、テニスプレイヤーのフェデラーの出身地です。
そのほか、バーゼルにあるFCバーゼル(スイス・スイスリーグ)には、かつて中田浩二選手や柿沼曜一朗選手が所属していましたね。
バーゼルはドイツ語圏ですが、フランスとドイツとスイスの国境にあるので、フランス語を話す人も多くいます。
スイスのフランス語圏には、オードリー・ヘップバーン(モルジュのトロシュナ村 Morge/Tolochenaz)、チャップリン(ヴヴェイ Vevey)、Queenのフレディ・マーキュリー(モントルー Montrexu)など、数々スターが晩年過ごした湖畔沿いの町があります。
スイスは何語?スイスの言語事情や言語圏のまとめ
今回は、スイスの言語事情についてお話ししました。
スイスの国語は
・ドイツ語
・フランス語
・イタリア語
・ロマンシュ語
の4つです。
多言語国家としての文化や長い歴史をもっています。それぞれの「語圏」が併存しています。
住むだけでなく旅行するだけでも十分にスイスの多言語文化を垣間見ることができますよ。